「富士山に のぼる」石川直樹［増補版］（アリス館2020年）
―あたりには、虫も動物も、なにもない。だれもいない。足音と、じぶんの呼吸の音ーきこえてくるのはそれだけだ。
筆者である石川直樹の息づかいとアイゼンが雪をとらえる音が写真を通して聞こえてきそうだ。筆者が見ている風景、ファインダーを通して見ている風景がまさに目の前に現れる。写真絵本の魅力が余すところなく表現されているいる1冊なのだ。エベレストをはじめとする世界7大陸最高峰全てに登頂した石川直樹。世界7大陸最高峰を彼は23歳当時世界最年少で登頂を成功させた。しかし、これらの記録や枕詞は彼にとってはさほど重要なものではない。19歳で冬の富士山に登ったことが、後々の登山に繋がったということだ。そして、彼は言う。「この絵本を、子どものときの自分におくりたいと主思います。山のぼりにあこがれていた、あのころの自分に――。」素晴らしいではないか！まさに、彼にとって「富士山」は出発の山だったのだ。そして、45歳になった今も、山に登り続けている。言うまでもない。実際の登山はもちろん、それだけではなく、様々なフィールド、多岐に渡る分野で世界を駆けまわっている。
この1冊を読むと富士山に登りたくなる、いや、それだけでない、何か新しいことを始めたくなる。チャレンジしたくなる。1歩前へ足を踏み出したくなる。背中をおしてくれる。そんな力がこの1冊にはあるのだ。
