新潮選書 『十五少年漂流記』への旅 椎名誠 書評

書評

 

今年2月、東京神田神保町の古書店巡りの際にふらっと立ち寄った三省堂本店の最後の古書市。何気なく棚をのぞき込んでいると目に入ってきた文字“椎名誠”これは、本が私を呼び込んでいると感じる。というか、学生の頃からのめり込み、“椎名誠”の本を文字通り片っ端から乱読してきたのだから、自然に目に入ってくるのだろう。即、手に取ると、未読のタイトル。ということで購入した1冊だ。偏った個人的な感想ではなく、できるだけ客観視して書評を書いてみようと思う。

2008年に新潮選書という形で刊行された本書。著者は、ある時は昭和の太宰と称される純文学の書き手であり、またあるときの文体については昭和軽薄体と言われ、ジャンルはSF作家でもあり、私小説作家であり、優れたエッセイストであり、旅行記を書かせたら右に出るものはいない旅する作家椎名誠である。これほどまでに多様な顔をもった作家がいるだろうか。

 さて、そんな作家椎名誠の座右の書である、「十五少年漂流記」(ジュール・ヴェルヌ)の舞台となった島がどこにあるのかを己の目で確かめるために、南米がパタゴニアからュージーランドへ向かう。南太平洋の島々に物語の謎を追う旅日記も言える1冊であり読み応え十分である。選書というカテゴリ―であり、いわば新書と専門書の中間的なものと捉えられるが、必要以上に構える必要は感じられない。著者自らが思考のウォーミングアップと表現しているが、いきなり南太平洋へと連れて行かれることはく、まずはカナダのツンドラのキャンプの様子から語られるのだ。無数の蚊と対峙し退治する(いや、できていないか)様子が語られる、まさにシーナワールド健在といったところだ。椎名誠の作品に触れたことがあれば安心感を得るろうし、初めてだとしても心地良く読み進められるはずだ。気がついたときには、南太平洋の島々の旅が始まっている。

 島々を調査する中で湧き上がる疑問について考察し、必要とあればためらうことなく行動に出る。冒険作家椎名誠の真骨頂である。本書は、『十五少年漂流記』の謎を解き明かしていく冒険譚であると同時に、それは椎名誠自身の積年の夢をかなえていく物語でもある。本書で語られる著作として、「楼蘭」「エンデュアランス号漂流」等、多くの人々を魅了した作品があるが、これらに大きく影響されたのは椎名誠だけではないはずだ。今、大人と呼ばれるようになった人々は、少年の頃にきっと“冒険”に出ることを夢見たことがあるだろう。特に本書を手に取っている人はなおさらだ。そんな少年の頃の夢を、少年の頃からずっと持ち続け、いやずっと少年の心を持ち続け、今なお動きを止めない椎名誠は我々の代表として「十五少年漂流記」に登場する魅力的な16人目の少年として輝きつづけているのかもしれない。本書を読了後は新ためて「十五少年漂流記」を間違いなく読みたくなるだろう。そして、付け加えておきたいのは、椎名誠の多くの著作が新しい世代の少年の座右の書になるだろうということだ。

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