完全保存版カヌーイスト野田知佑メモリアルブック(BE-PAL編集部 小学館 2023年4月24日)書評(というより個人的な思いを込めて)

書評

 2022年3月27日に亡くなった野田知佑。随分久しぶりに彼の文章を読んだ。今なお、その文章は輝きに満ちていた。いや違う。今こそ、今の時代にこそ、彼の言葉のひとつひとつが輝きを増しているのだ。本書の帯文で、作家の夢枕獏が次のような言葉を綴っている。―野田さんの言葉には力がある。物語には力がある―

 世界中の川をカヌーで旅をし、世のアウトドア好きの憧れの的であった野田知佑。間違いなくこの数十年の日本のアウトドア界を牽引し続けてきたことは言うまでもない。どれだけの若者が、彼の背中を追い、どれだけ大変な目にあっただろうか。(尊敬と羨望の意を込めて)かくいう私も、全く個人的ではあるが、成熟した一人前の大人象を野田知佑に重ねたものである。数多くの彼の文章には、一貫して真の自由を追い求める姿があったし、世の中への痛烈な批判、いわゆる公権力へ阿ることなく対峙する姿があった。そして、自然へのリスペクト、子ども達への厳しくも優しい眼差し、そして、成熟した一人前の大人とは相反するどこかお茶面な無邪気さ(子どもっぽさと言ってもよい)がある、なんとも魅力溢れるのが人間野田知佑なのだ。

 本書は、野田知佑が形作られるのに寄与してきたであろう彼の様々な旅、経歴、道具、人脈、著書等が数多くの写真と多くの交友関係が凝縮された1冊である。彼のことを知っている人なら、その周辺のことも少なからず知っているであろう。若い頃に彼の著書をバイブルのように手に取っていた人にとっては、懐かしい名前も数多く登場する、帯文を書いている作家夢枕獏、モンベルの辰野勇、写真家の佐藤英明、作家の椎名誠、藤門弘等。そして、絶対に忘れてはならないのが、“ガク”である。もはや説明はいらないだろう。一定の年齢より上の方は、カップヌードルのCMが懐かしいかもしれない。

 個人的な思い出のワンシーンがある。大学生の頃だった。当時、野外活動リーダー、ボランティアをしていたのだが、当時、日本最後の清流と言われた高知県の四万十川を小中学生と共にラフティングボートで川下りをしながらキャンプをする計画のために下見に行っていた。上流下流を車で行き来していると、今、正に野田知佑が四万十川に来ているという噂が・・・。当時、強烈に憧れをもっていた野田知佑が近くにいる?!本物が?!ということで、いろんな河原、キャンプ場を探すと・・・。

 河原を走り回るガクの姿!そして、カヌーを準備する野田さんの姿!思わず、「野田さーん。」と言ってしまった。しばらくして野田さん出発の時、カヌーに乗り込み今まさに漕ぎ出そうとしたときに、「ガク、行くぞ!」と野田さんの渋い声。どこからか走ってきたガクが船首へ跳びのって出発。うわ~、本の中の世界やー・・・・たまらなく嬉しかった・・・というワンシーン、今でも鮮明に覚えています。

 ということで、正しくメモリアルブック。完全保存版です。野田ファンならずとももっておきたい1冊になりだろう。家にもっていた他のいくつかの著書も写真でご紹介。(思いのほかたくさんあったな。)

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