「完全版社会人大学人見知り部卒業見込み」(平成27年12月25日初版発行・若林正恭)書評

書評

 本書の著者は、言わずと知れたお笑いコンビ「オードリー」のつっこみ担当の若林正恭である。お笑いに詳しくない人でも、ピンクのベストを来て胸を張り「トゥース!!」と言っている人と言えばわかるだろう。その人の名は春日俊彰であるが、間違ってはならない。著者はその相方の方である。世間的にはボケ担当の春日俊彰のイメージが強いかもしれない。では、若林正恭がどんな文章を書くのか非常に興味深い。(個人的には別の本を読んだことがあったのだが)

 本書は、『ダ・ヴィンチ』(メディアファクトリー)に2010年8月号~2014年2月号に連載されたものに加筆修正し、更にあとがきは、本書のために書き下ろされたものだ。まず、もともと雑誌の連載であるため、ひとつひとつのエピソードが短くまとめられており大変読みやすい。読書自体にハードルの高さを感じている人にもとても読みやすいはずだ。

 内容はというと、まずは、ここまで正直に自分の心情を赤裸々に綴ったものだと感心させられる。飾らない文体の中にもちょっとしたユーモアや言葉のチョイスからもセンスが感じられる。本人は、自分のことを卑下したり、肯定せずに、“中2病”と揶揄したり(あっ、周りからも言われたみたいだが)しているところから始まる。個人的には共感することが多く好感がもてる。(かくいう自分も中2秒なのか?!)本人にすればかなりしんどい日々を生きてきたのだろう。テレビの中の華やかな世界で生きている彼を画面越しにしか見たことはないが、内面で考えていたこと、感じていたことが分かる。しかし、不思議なことに後半につれて(連載では年月が経つにつれて)読み手の読むスピードがアップしていく。中2病から完全に脱却したのではないだろうが、社会というエタイノシレナイモノを受け入れ、いや、エタイノシレナイ社会でそれでも社会人として生きている自分を受け入れる様子が感じられるのだ。本人は否定されるかもしれないが、本書は「社会人大学人見知り学部」に在籍する、人間若林正恭の成長物語とも言えるのではないだろうか。(ちょっと大袈裟か)しかし、彼は決して卒業はしないだろう。あくまでも卒業見込みなのだ。もうひとつ付け加えるならば、自分が「社会人大学人見知り学部」に在籍していることに気づかない人、本書を読んでそれに気づいた人への応援の書にもなり得る。きっとだれもが、そんな一面をもっているだろうし、だれもが卒業見込みなのだ。難しく考えることはない。まずは一度彼の文章を読んでみることをお勧めする。(JPIC読書アドバイザー糸井文彦)

タイトルとURLをコピーしました